平成25年11月8日/さいたま地方裁判所/平成23年(ワ)第3642号
平成25年11月8日/さいたま地方裁判所/平成23年(ワ)第3642号
自保ジャーナル1915号167頁
【ケース】
介護職員が目を離した隙に勝手口から離設し、3日後に畑のなかで死亡しているのが発見されたケース
【結論】
原告ら合計4,843万円の請求のうち、1,980万円の損害賠が認められています。
【サービス】
小規模多機能型居宅介護施設(通所、訪問、宿泊)(株式会社)
【利用者】
75歳。男性。
要介護4。
アルツハイマー型認知症。
【予見可能性と結果回避義務違反】
まず最初に、予見可能性、結果回避義務の内容についての議論はせず、被告(事業者側)に監視義務違反は認められないとしています。
(理由)
① 介護職員が目を離した時間はわずか5,6分
② 他の利用者もいるなかで片時も目を離さずに介護することは不可能
③ 担当職員はトイレで他の利用者の排泄介護をしつつもトイレのドアを開け、物音がしたら本人の様子を2回も見に戻っている
つぎに、離設すれば生命・身体に危険が及ぶことの具体的な予見可能性があったと認定しています。
(理由)
① 認知症による見当識障害
② 利用者に帰宅願望があったこと
③ 利用者が窓のカギを開けて外に出ようとしたことがあったこと
そこで、結果回避義務としては、
簡単にカギが開く勝手口には、人の出入りがあれば音が鳴る器具を設置する義務
を認定しています。
そして、被告(事業者側)は、
勝手口に音が鳴る器具を設置していなかったから、
結果回避義務違反があると認定しています。
【主な言い分】
Ⅰ 被告(事業者側)は、言い分として、以下のことを主張しました。
(言い分)
① 勝手口に発泡スチロールを置いて外に出にくくしていた。
② 勝手口にカーテンを掛けて目隠ししていた。
しかし、裁判所は、被告(事業者側)の言い分を認めませんでした。
(理由)
勝手口のカギは簡単に開くものだったのであり、対策が不十分。
Ⅱ また、被告(事業者側)は、言い分として、以下のことを主張しました。
(言い分)
① 音が鳴る器具をつければ、利用者が勝手口を認識してしまう。
② 勝手口を完全に施錠してしまうと身体拘束となる。
しかし、裁判所は、被告(事業者側)の言い分を認めませんでした。
(理由)
① 業者の出入りがあるから、利用者は勝手口を認識できる。
② 勝手口を完全に施錠する必要はない。
【教訓】
本ケースでは、見守る義務については違反がないとされた一方、勝手口に音が鳴る器具をつける義務(物的体制)については違反があるとされたのが特徴的ですね。
同じく離設・徘徊のケースでも、まったく逆の判断がされているケースもあります。
すなわち、音が鳴る器具をつける義務(物的体制)については違反がないが、見守る義務については違反があるとされたケースです。
(平成28年9月9日/福岡地方裁判所/平成26年(ワ)第3028号)
2つのケースのちがいですが、本ケースでは利用者3人に対し職員1人で、かつ、その職員が他の利用者のトイレ介助をしていたケースであるのに対し、
平成28年9月9日の福岡地裁のケースは、利用者28名に対し職員5名で、かつ、職員は他の利用者の食事介助や相談対応をしていたケースでした。
本ケースでは、職員が1人で、かつ、職員が他の利用者のトイレ介助をしていので、さすがに見守り切れないと判断されたのでしょう。
しかし、同じようなケースで、まったく逆の判断がされるのは、統一がとれていない印象も受けます。
いずれにせよ、介護福祉事業者としては、非常口・勝手口には、音が鳴る器具をつけた方が無難ということはいえそうです。
もう1点、本ケースでは、死亡慰謝料について相場より低い1,400万円を認定していますね(相場は2,000万円)。
(考慮している事情)
① 本人が自ら離設したこと(過失相殺的ですね)
② 本人が離設したのは今回が初めて
③ 警察犬等による捜索でも見つからなかったこと
事業者だけに一方的な責任を負わせないようにしている点で、バランスがとれていると思います。