平成31年3月20日/東京高等裁判所/平成30年(ネ)第5224号(第1審 平成30年10月25日/宇都宮地方裁判所/平成28年(ワ)第156号)
平成31年3月20日/東京高等裁判所/平成30年(ネ)第5224号
(第1審 平成30年10月25日/宇都宮地方裁判所/平成28年(ワ)第156号)
→ 判決全文と弁護士原口圭介のコメント(PDF)(第1審宇都宮地方裁判所)
→ 判決全文と弁護士原口圭介のコメント(PDF)(第2審東京高等裁判所)
【ケース】
送迎の際、シルバーカーを使用していて転倒し死亡たケース。
【結論】
原告(利用者側)の請求は認められませんでした。
【サービス】
デイサービス(社会福祉法人)
【利用者】
97歳。女性。
【予見可能性と結果回避義務違反】
シルバーカーを使用したときに転倒する具体的な予見可能性はなかったと認定されました。
理由:
① 送迎の際、いつもシルバーカーで2,3歩1人で歩行していたが、転倒したことがなかった。
② 1人で歩行したのはせいぜい2,3歩だった。
③ 地面はタイル張りで障害がなかった。
④ そもそも原告(利用者側)からなるべくシルバーカーを使用して自力歩行をキープしてほしいと依頼を受けていて、ずっとそうしていた。
【ポイント】
① 転倒についての一般的な予見可能性はあるものの、シルバーカーを使用したときに転倒することを予見できたかという具体的な予見可能性については認められませんでした。
② 原告(利用者側)は、肢の筋力が低下していたのだから転倒は予見できたはずと主張しました。
しかし、裁判所は、
ⅰ主治医意見書でも「見守り」とされており、常に体を支えなければいけないわけではない
ⅱ週2回、自宅で1人で生活できていた
よって、転倒の予見可能性はないし、結果回避義務違反もないと判断しました。
【教訓】
裁判所は、シルバーカーを使用したとき転倒することは予見できなかったとし、具体的な予見可能性を認めませんでした。
この点、転倒という結果が発生したらすべて介護事業者が責任を負うとなったら、介護事業者は萎縮してしまいます。
しかし、それでは介護業界の健全な発展は見込めません。結局、利用者にしわ寄せが来てしまいます。
かつて産婦人科で医療訴訟が頻発し、産婦人科医の成り手がいなくなるということがありました。
介護事業ではそのようなことがないようにしたいものです。
本件で裁判所が具体的な予見可能性を認めなかったのは妥当な判断だったと思います。