平成22年10月25日/岡山地方裁判所/平成21年(ワ)第223号
平成22年10月25日/岡山地方裁判所/平成21年(ワ)第223号
判例タイムズ1362号162頁
【ケース】
利用者が職員に気付かれることなく浴室に入り込み、自分でお湯を入れた浴槽内で死亡したケース。
【結論】
原告ら3人それぞれ各1,163万円の請求のうち、各147万円が損害賠償として認められています。
【サービス】
介護老人保険施設(社会福祉法人)
【利用者】
81歳。男性。
長谷川式スケール 4点。
徘徊傾向あり。
【予見可能性と結果回避義務違反】
まず、浴室を施錠していなければ事故が発生することの具体的予見可能性はあると認定しています。
(理由)
① 本人の徘徊傾向
② 浴室はいろんな危険がある
・ 転倒
・ 心臓への負担
・ やけど
・ 溺死
そこで、結果回避義務としては、
浴室にいたるすべての扉を施錠する義務
を認定しています。
そして、被告(事業者側)は、
本件浴室の扉は施錠していたけれども、
本件浴室と隣接する浴室との間の扉を施錠せず、かつ、
本件浴室と脱衣室との間の扉を施錠しなかったから、
結果回避義務違反があると認定しています。
【主な争点】
本件では、まず、人員体制上、全入居者についてその動静を見守ることは困難(結果回避義務の否定)として、施設管理の問題へと導いています。
また、本件では、裁判所は、過失相殺を認めています。
原告(利用者側) 7 :被告(事業者側) 3
(理由)
① 職員が浴槽に湯を入れたまま放置したのではない。
② 本件浴室の扉は施錠していた
③ 本人が自ら浴室内に入り浴槽に湯を入れて入った
【教訓】
本件では、裁判所は、人員体制上、全入居者についてその動静を見守ることは困難として、見守り義務違反についてはないと認定しています。
これは、介護現場の実情に配慮した認定であり、よい判断だと思います。
つぎに、本件では、裁判所は、浴室を施錠していなければ事故が発生することの具体的予見可能性はあると認定していますが、その理由は、「浴室は危険」というものであり、抽象的な理由で認定してしまっています。
これは過失責任ではなく結果責任に近づくもので、よくない判断だと思います。
ただ、介護福祉事業者としては、浴室での事故には十分気を付けておく必要があるということでしょう。
もっとも、裁判所は、過失相殺を認め、被告(事業者側)の過失割合は3割としています。
つまり、本件では、被告(事業者側)にだけ責任を負わせるのは酷という価値判断です。
これは、利用者の死という重い結果の責任は認めつつ、結論の妥当性にも配慮したものであり、バランスのとれた、優れた判断だと思います。