平成25年2月28日/東京高等裁判所/平成24年(ネ)第7331号 

平成25年2月28日/東京高等裁判所/平成24年(ネ)第7331号
自保ジャーナル1896号157頁
(平成24年10月30日/東京地方裁判所/平成23年(ワ)第5183号の控訴審)

→ 判決全文と弁護士原口圭介のコメント(PDF)

【ケース】

訪問介護サービスの利用者が臀部の褥瘡及び感染症に罹患して、担当ヘルパーと担当ケアマネの責任が追及されたケース。

【結論】

控訴人(利用者側)の請求は認められませんでした。

【サービス】

訪問介護、居宅介護支援(株式会社)

【利用者】

81歳。女性。
要介護3。
意思伝達能力に問題なし。

【予見可能性と結果回避義務違反】

ヘルパーの責任について、結論は第一審と同じです。
少し第一審より具体的な認定をしている部分があります。

そもそもヘルパーには褥瘡を常にチェックする契約上の義務がないと認定しています。

(理由)
① ヘルパーの仕事は身体介護と生活支援

② 褥瘡のチェックは訪問看護の仕事

③ H21.10.15の時点で左大腿部の褥瘡(本件褥瘡ではない)を発見して医師の診察を勧めてもいるから、安全配慮義務違反付随義務違反)もない。
  ・ さらに、入浴介助の手順からすると、臀部の観察は難しかった。
  ・ さらに、ヘルパーが体調を気づかうと、利用者本人が、
   「医者じゃないのに余計なことを言うな」
   とヘルパーを叱ったことがあり、やはり臀部の観察は難しかった。

また、ケアマネの責任についても、結論は第一審と同じです。

そもそもケアマネには褥瘡を予防する契約上の義務がないと認定しています。

(理由)
① ケアマネの仕事は居宅サービス計画の作成の支援とサービス提供事業者との連絡調整。

② 褥瘡の予防は訪問看護の仕事。

③ H21.10.15の時点で左大腿部の褥瘡(本件褥瘡ではない)の報告を受けて医師の診察を勧めてもいるから、安全配慮義務違反付随義務違反)もない。

【教訓】
褥瘡について、担当ヘルパー担当ケアマネの責任を否定した重要な判例です。

第一審と同じく、訪問介護、居宅介護支援、訪問看護の介護保険上の位置づけから、褥瘡については訪問看護の仕事であり、ヘルパーやケアマネの責任を追及するのは筋ちがいという判断をしています。

東京高等裁判所の判断なので、実務上それなりの重みを持つことになります。

また、本件では、担当ヘルパーと担当ケアマネは、褥瘡に気づいたあと、利用者本人に、医者にみてもらうよう勧めているので、契約上の付随義務違反(安全配慮義務違反)もないとされました。

では、応用問題として、本件で、利用者本人の意思伝達能力に問題があったとすれば、どうでしょうか。

利用者本人の意思伝達能力に問題があったとすれば、医者にみてもらうよう勧めたとしても、本人が自分で医者に自分の褥瘡のことをきちんと伝えられるとは限りませんよね。

そうすると、ヘルパー・ケアマネとしては、利用者本人に、医者にみてもらうよう勧めるだけではなく、直接、訪問看護・医師に褥瘡のことを伝えて連携する義務が発生するといえるかもしれません。

このように、状況によっては、ヘルパー・ケアマネが褥瘡についての責任を負うケースもありうると考えられます。

そこで、ヘルパー・ケアマネ、そして介護福祉事業者としては、気を抜かずに、常識的に考えて適切な行動をとり続けていく、ということが大切だと思います。