平成30年3月28日/松山地方裁判所/平成28年(ワ)第123号

平成30年3月28日/松山地方裁判所/平成28年(ワ)第123号

→ 判決全文と弁護士原口圭介のコメント(PDF)

【ケース】

白玉団子を喉に詰まらせて植物人間状態となったケース。

【結論】

原告ら3人それぞれ1,361万円(合計4,083万円)の請求のうち、原告ら3人それぞれに対し、752万円(合計2,256万円)が認められています。

【サービス】

住宅型有料老人ホーム(デイサービスと体験入居の組合せ3日間)
(有限会社)

【利用者】

89歳。
要介護4。

障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)A2
(A=屋内での生活は概ね自立しているが、介助なしには外出しない)
(2=外出の頻度が少なく、日中も寝たり起きたりの生活をしている)

認知症高齢者の日常生活自立度Ⅱa
(日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが多少見られても、誰かが注意していれば自立できる)

【予見可能性と結果回避義務違反】

まず、団子を口に入れれば、これを喉に詰まらせて窒息することの具体的な予見可能性があったと認定されました。

(理由)
① 利用者は咀嚼能力、嚥下能力が低下していた。
  ・ 89歳
  ・ 総義歯
  ・ 円背→誤嚥しやすい
  ・ 認知症→食べるペース、量が判断できない

② 団子の形状
  ・ 粘着性、弾力性
  ・ 直径2~3センチメートル

そこで、結果回避義務としては、

① 「皿を手が届く範囲に置かないようにする義務」
または、団子を提供するのであれば、
② 「利用者の行動や咀嚼嚥下の状況を注意深く確認する義務」

を認定しています。

そして、被告(事業者側)は、

① 皿を手が届く範囲に置いたうえ、
② 利用者の行動も確認していなかったから、

結果回避義務違反がある、と認定しています。

【ポイント】

Ⅰ 被告(事業者側)は、言い分として、以下のことを主張しました。

(言い分)
① 利用者は、本件事故前の4回の施設利用時、嚥下能力に問題はなかった。

② 被告(事業者側)は、本件事故前に利用者に嚥下事故があったとか、嚥下能力に問題があるとかの報告は受けていなかった。

③ 本件団子は豆腐入りだった。

④ 本件事故は配膳中に発生したものだった。

⑤ 利用者は、他の利用者のおやつだった本件団子をつまみ食いしたものだった。

しかし、裁判所は、被告(事業者側)言い分認めませんでした

(理由)
① 本件事故前の施設利用から約1年経過しているから、嚥下能力が低下していることは予想できる。よって、予見可能性がないとはいえない。

② ①と同じ。

③ 豆腐入りでも粘着性、弾力性があった。

④ 配膳中でも食べてしまうことは予想できる。よって、予見可能性がないとはいえない。

⑤ 他の利用者のおやつでも食べてしまうことは予想できる。よって、予見可能性がないとはいえない。

Ⅱ 本件では、裁判所は、過失相殺を認めています。
原告(利用者側)3:被告(事業者側)7

(理由)
① 利用者は、本件事故前の4回の施設利用時、嚥下能力に問題はなかった。

② 被告(事業者側)は、本件事故前に利用者に嚥下事故があったことや、嚥下能力に問題があることの報告を受けていなかった。

もっとも、過失相殺とは、
原告(利用者側)に落ち度がある場合にするものです。

しかし、上記事情①②は、原告(利用者側)の落ち度ではありません。

よって、この過失相殺は、裁判所が、妥当な結論を導くために、便宜的にしたものであると思います。

【教訓】

本件では、本件事故が発生した施設入所時に、施設長は、ケアマネに本人の状況を確認しています。

そして、ケアマネによれば、嚥下機能に問題はなく、誤嚥事故もないとのことでした。

このような状況において、被告(事業者側)に、嚥下機能の低下による窒息を予見せよというのはのように思います。

なお、本人が利用していたデイサービスセンターは、本人の嚥下機能の低下を把握していたふしがあります。しかし、被告(事業者側)としては、ケアマネに確認すればなすべきことはなしているように思います。

しかしながら、裁判所は、嚥下機能の低下による窒息の予見可能性を認めました。

これは、本人に植物人間状態という重大な結果が発生していることを無視できなかったからだと思います。

その意味では、過失責任ではなく、結果責任に近づいてしまっているようにも思います。

他方で、本件で、裁判所が、過失相殺を認めたのは、さすがに被告(事業者側)に忍びなかったのだと思います。

本件は、事業者にとっては、現場を萎縮させかねない、厳しい判決だと思います。