平成29年2月15日/東京地方裁判所/平成26年(ワ)第25822号

平成29年2月15日/東京地方裁判所/平成26年(ワ)第25822号
判例タイムズ1445号219頁

→ 判例全文と弁護士原口圭介のコメント(PDF)

【ケース】

2階の居室の窓から地上へ転落して受傷したケース。

【結論】

3,787万円の損害賠償請求のうち、1,075万円が認められています。

【サービス】

認知症対応型共同生活介護サービス(グループホーム)(NPO法人)

【利用者】

93歳。男性。
要介護2。
認知症。

【予見可能性と結果回避義務違反】

本件では、原告(利用者側)が民法717条の工作物責任という法律構成を主張しています。

「窓」という工作物に、「設置又は保存の瑕疵」がなかったか、すなわち、安全性を欠いていなかったかが問題にされています。

やや特殊な法律構成ですが、実質的な判断の内容は、
① 予見可能性
② 結果回避義務違反
とほぼ似通っています。

まず、窓から転落することの一般的な予見可能性はあったと認定しています。

(理由)
① 介護施設において認知症高齢者が帰宅願望によって窓から脱出を試みて転落する事故多数報告されていた。

② 本人を含め他の入居者にも多かれ少なれ外出願望が見られていた。

そこで、結果回避義務としては、

窓の設置または保存について十分な措置を講じる義務

があるとしています。

そして、被告(事業者側)は、

① 本来窓が全く開かないように設置するストッパーを、中間止めの設置方法(22.5センチメートルまで開く)で設置した
  そのため、ストッパーはロックした状態でも手で強く引っ張れば取り外すことができた

② ストッパーを窓の下側だけに設置した

③ 中間止めの設置方法にも対応できるストッパーもあるのに使用しなかった

④ そもそも消灯後もロックしていなかった可能性もある

から、結果回避義務違反があると認定しています。

【ポイント】

Ⅰ 被告(事業者側)は、言い分として、以下のことを主張しました。

(言い分)
窓を完全に開かないようにすることは、一種の身体拘束にあたる。

しかし、裁判所は、被告(事業者側)の言い分を認めませんでした。

(理由)
居室の入り口には鍵がかけられておらず「身体拘束ゼロへの手引き」にいうような身体拘束はない。

Ⅱ また、被告(事業者側)は、言い分として、以下のことを主張しました。

(言い分)
ストッパーによって窓を完全に開かないようにするのは、防災上の問題がある。

しかし、裁判所は、被告(事業者側)の言い分を認めませんでした。

(理由)
① 窓からの避難を確保することは必須ではない。

② スタッフストッパーの鍵を持っていれば問題ない。

【教訓】

本件では、本来窓が全く開かないように設置するストッパーを、中間止めの設置方法(22.5センチメートルまで開く)で設置していたため、ストッパーはロックした状態でも手で強く引っ張れば取り外すことができたとのことです。

そうだとすれば、やはり、結果的には、そのような中間止めの設置方法は、危険な方法だったのでしょう。

しかし、被告(事業者側)が、そのような中間止めの設置方法を採用したのは、窓が全く開かないようにするのでは、利用者を閉じ込めてしまうようで、利用者の尊厳を傷つけると考えたからでしょう。

その意味では、被告(事業者側)にとっては、な判決ともいえます。

とはいえ、転落という結果が重大なことも確かです。

このような裁判例の蓄積を参考にして、施設のリスクマネジメント進化させていく必要があると思います。