平成30年6月27日/さいたま地方裁判所/平成28年(ワ)第1218号
平成30年6月27日/さいたま地方裁判所/平成28年(ワ)第1218号
判例時報2419号56頁
【ケース】
1人で口腔ケア(うがい)をしていた最中に転倒し、その後、死亡したケース。
【結論】
306万5116円の損害賠償が認められました。
もっとも、死亡については因果関係がないとされました。
【サービス】
ショートステイ(株式会社)
【利用者】
64歳。男性。
要介護3(脳出血により右片麻痺)。
【予見可能性と結果回避義務違反】
まず、転倒の具体的な予見可能性があったと認定されました。
理由:
① そもそも脳出血の後遺症があった。
② そもそも自宅で転倒していることを知らされていた。
③ さらに転倒直前に2回、通所リハビリテーションで車いす使用となったエピソードを家族から伝えられ、注意喚起されていた。
④ 本人はいつも壁に左肩をもたれかけて 、バランスの悪い状態で口腔ケア(うがい)をしていたが、職員はそれを認識していた。
そこで、結果回避義務としては、
「口腔ケアに付き添うか、洗面所内に椅子などを設置する義務」
を認定しています。
そして、
口腔ケアに付き添ってもいないし、洗面所内に椅子などを設置してもいないから、結果回避義務違反があると認定しています。
【ポイント】
① 被告(事業者側)は、本人は1人で口腔ケアできていたので、転倒を予見できないと主張しました。
しかし、裁判所は、1人でできていたからといって当日転倒しないと軽信してよいことにはならないとして、被告(事業者側)の言い分は通らないとしました。
② また、被告(事業者側)は、本人や家族が、付き添いの椅子の設置を求めなかったので、結果回避義務違反はないと主張しました。
しかし、裁判所は、被告(事業者側)は介護事業者なので、求められなくてもしなければならないとして、被告(事業者側)の言い分は通らないとしました。
③ 死亡については因果関係がないとされました。
転倒→骨折→「認知機能低下」→ADL低下→嚥下機能低下→誤嚥性肺炎→死亡という流れのうち、
「認知機能低下」は、脳出血の後遺症や認知症によるものである可能性があり、 「骨折→認知機能低下」 という流れはその機序が明らかでないと判断したためです。
【教訓】
とりわけ洗面所に椅子を置いておくことは簡単にできたようにも思います。しかし、事前に思いつくのは案外難しいのかもしれません。
介護事業者としては、利用者のために何ができるか、常に考え続ける必要がありそうです。