介護事故が起きる前にすべきこと
【ケース】
今後、介護事故の再発を防止するためにどのようなことをすべきでしょうか。
一般的には、
①対応マニュアルの整備、②ヒヤリハット事例の共有、③定期的な研修
などがあると思います。
指定介護老人福祉施設は、事故の発生又はその再発を防止するため、次の各号に定める措置を講じなければならない。
指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準第35条第1項
一 事故が発生した場合の対応、次号に規定する報告の方法等が記載された事故発生の防止のための指針を整備すること。
二 事故が発生した場合又はそれに至る危険性がある事態が生じた場合に、当該事実が報告され、その分析を通じた改善策を従業者に周知徹底する体制を整備すること。
三 事故発生の防止のための委員会及び従業者に対する研修を定期的に行うこと。
【弁護士からみたポイント】
① 利用者一人ひとりのリスクを具体的に記録しておく
利用者は一人ひとりごとに心身の状況は異なります。
視力・聴力の衰え具合、筋力の衰え具合、嚥下能力の衰え具合、日常生活への意欲、認知症の進み具合などは、利用者一人ひとりごとに異なります。
そこで、利用者一人ひとりについて、どのようなリスクがあるかを具体的に記録して共有しておくべきです。
たとえば、「転倒のリスクあり」とするではなく、
「下肢の筋力が落ちているものの、活動意欲は旺盛で、急に椅子から立ち上がって歩き出そうとすることがあるので、介助時は、目を離すとしてもその時間を極力短くするなど、見守りに十分注意すべき」
とするなどです。
この点、リスクを具体的に記録すると、訴訟になったとき、事故の予見可能性が認められやすくなる、ということはあると思います。
もっとも、事故の予見可能性が認められやすいとなれば、その分、保険会社から保険金が下りやすくなるという関係になります。
ですので、やはりリスクはできる限り具体的に記録して共有し、事故を未然に防ぐということが大切と考えます。
② 利用者・家族とコミュニケーションを十分とっておく
どんなに気をつけていても、介護事故を100%防ぐことはできません。
そこで、日頃から利用者・家族とのコミュニケーションを十分とり、信頼関係を築いておくことが大切と考えます。
特に、介護サービス契約時に、利用者・家族に対して、介護事故を100%防ぐことはできないことを事前に説明しておくべきです。
そのように事前に手を打っておけば、万が一介護事故が発生した場合でも、利用者・家族が抱く感情は違ってきます。
できる限り訴訟にしないために、事前にできることはしておくべきでしょう。
③ 弁護士が研修を行うのも一つの手
介護事故発生の防止のための研修を、弁護士が行うのも一つの手です。
たとえば、事業所内であったヒヤリハット事例や、実際に訴訟になった事例をもとに、どうすればよかったかを検討します。
いったん介護事故が発生してしまうと、それまでの介護という福祉の世界から、過失、損害賠償という法律の世界へ、突如として放り込まれてしまうのが現実です。
そこで、介護事故が発生したとき、法律的にはどうなるのか、どのように行動すれば法律的にはよかったのか、法律の専門家である弁護士がお伝えすることは、介護事故防止の意識を高めるためにとても有用なことと思います。