介護事故訴訟の流れ

【ケース】

裁判所から転倒事故についての訴状が送られてきました。

今後どのような流れで進行するのでしょうか。

【訴訟の流れ】

訴訟が提起されると、以下のような流れで進行するのが通常です。

ポイントは、訴訟は戦いであるということとその戦いを止める和解のタイミングです。

1 原告(利用者側)から訴状が送られてきます

     

2 被告(事業者側)が答弁書を提出します

弁護士のコメント】

答弁書では、原告が主張している事実について、認める、認めないという態度を明らかにします。

これを認否と言います。

この認否をすることで争点を整理していきます。

認否を行うにあたっては、弁護士との打合せが必要になります。

打合せにかかる時間と労力も小さくありません

     

3 原告・被告両方がともに準備書面を提出します

【弁護士のコメント】

準備書面と呼ばれる書面において、原告・被告両方が争点についての主張します。

たとえば、被告(事業者側)であれば、「入所時の病院サマリーにや介護計画に転倒のリスクに関する記載はなく、予見可能性はなかった」などの主張をすることになります。

     

4 原告・被告両方が陳述書を提出します

【弁護士のコメント】

陳述書とは、当事者が体験したことを語る書面です。

たとえば、被告(事業者側)であれば、担当した職員、目撃した職員などの話しをまとめて書面にします。

陳述書を作成するためには、その人から弁護士が直接話しを聞いて、書面にまとめる必要があります。

この点での、職員への物理的・精神的負担も小さくありません

     

5 裁判所が1回目の和解の提案をします

【弁護士のコメント】

これまでに出そろった書面と証拠をもとにして、裁判所はその訴訟についてある程度の心証(どちらを勝たせるべきかの見立て)を持っているのが通常です。

そこで、裁判所は、その心証にしたがって、金額を示したうえで、和解の提案をします。

原告(利用者側)を勝たせるべきという心証を持っているならば、それなりに高額な金額が示されるでしょう。

逆に、被告(事業者側)を勝たせるべきという心証を持っているならば、低い金額が示されることになります。

和解の提案の内容によっては、このタイミングで戦いを止め和解することも十分考えられます。

     

6 証人尋問が行われます

弁護士のコメント】

裁判所の和解の提案を原告・被告のどちらかが受け入れなかった場合、訴訟は証人尋問へと進んでいきます。

たとえば、被告(事業者側)であれば、担当した介護職員が証人になって、事故の状況などを証言することになります。

証人尋問で出てくる証言は重要な証拠になりますので、証人尋問を行うにあたっては、事前にリハーサルを行うなどして、十分準備するのが通常です。

事業所にとっては、このリハーサルなどの事前準備の負担は小さくありません

また、訴訟は戦いですので、証人となる介護職員は、立場上、利用者に不利な方向で証言するしかありません。

しかし、介護職員は、それまでは利用者に寄り添って介護してきています。

ですので、証人尋問は、介護職員にとってはショッキングな体験になる可能性もあります。

このような点からも、訴訟はできる限り回避すべきです。

     

7 裁判所が再び和解の提案をします

【弁護士のコメント】

証人尋問の結果を見て、裁判所はさらにその訴訟について見立てをします。

そして、この段階では裁判所はどちらを勝たせるべきかほとんど決めています。

そこで、裁判所は、その心証にしたがって、金額を示したうえで、再び和解の提案をします。

この段階での和解案は、判決になったときの結論と近い内容になります。

よって、そのことを踏まえて、訴訟という戦いを続けるべきか、戦いを止めて和解案を受け入れるべきかを検討することになります。

     

8 裁判所が判決を下します

【弁護士のコメント】

裁判所の再度の和解の提案を原告・被告のどちらかが受け入れなかった場合、裁判所が判決を下すことになります。

訴訟の勝敗がつきます。

     

9 原告・被告のどちらかが控訴する場合があります

【弁護士のコメント】

第1審の裁判所の判決に不服がある場合、原告・被告のどちらからでも、高等裁判所へ控訴することができます。

控訴審では、再び原告・被告が争点についての主張をします。

     

10 高等裁判所が判決を下します

【弁護士のコメント】

控訴審でも和解が成立しない場合、高等裁判所が判決を下すことになります。

     

11 原告・被告のどちらかが上告する場合があります

【弁護士のコメント】

上告とは、最高裁判所への再々度の判決を求めることですが、実務上は、上告までいくことはほとんどありません。