平成30年1月22日/長崎地方裁判所/平成28年(ワ)第279号
平成30年1月22日/長崎地方裁判所/平成28年(ワ)第279号
【ケース】
ショートステイ利用中に施設から外に出て、数日後、山中において遺体で発見されたケース。
【結論】
原告ら2人それぞれ1,228万円(合計2,456万円)の損害賠償が認められています。
【サービス】
住宅型有料老人ホーム(ショートステイ)(有限会社)
【利用者】
83歳。女性。
要介護2。
障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)A1
(A=屋内での生活は概ね自立しているが、介助なしには外出しない)
(2=介助により外出し、日中はほとんどベッドから離れて生活する)
認知症高齢者の日常生活自立度Ⅲa
(日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さが見られ、介護を必要とする)
【予見可能性と結果回避義務違反】
本件では、被告(事業者側)が、予見可能性と結果回避義務違反を争いませんでした。
【ポイント】
被告(事業者側)は、言い分として、以下のように過失相殺を主張しました。
① 前提として、本人に事理弁識能力(ここでは、危険を予見して回避する能力)があった。
② 職員の声掛けに応じず離設した。
③ 本人が周囲に助けを求めなかった。
しかし、裁判所は、被告(事業者側)の言い分を認めませんでした。
(理由)
① (①について)本人は、認知症の中核症状(認知症の中核症状(記憶障害、認知機能障害等)が生じていて、そもそも事理弁識能力(危険を予見して回避する能力)はなかった(≒過失相殺能力がなかった)。
・認知症高齢者の日常生活自立度(認知度)Ⅲa
・入所前2回、入所後2回、帰宅願望や徘徊あり
・自宅と反対方向に歩いていたという異常性
・森林に入っていったという異常性
② (②について)そもそも危険を予見して回避する能力がない。
③ (③について)そもそも助けを求めることができる能力がない。
【教訓】
利用者が徘徊・離設後、山中で遺体となって発見されるという痛ましいケースでした。
利用者はそもそも徘徊・帰宅願望が強かったので、被告(事業者側)が責任を負うのは当然といえば当然なのかもしれません。
しかし、そもそも徘徊・帰宅願望が強い利用者を、家族や社会のニーズからあえて受け入れた事業者側が、常に重い責任を負わなければならないというのも、社会のあり方として健全といえるのだろうかという疑問がないわけではありません。
この点、本件では、被告(事業者側)が、慰謝料額に関し、利用者の年齢(83歳)に照らして慰謝料額は1,500万円が相当と主張しています(死亡慰謝料の相場は2,000万円)。
この主張は、大変興味深いと思いました。
近時、高齢者の死亡慰謝料について、交通事故と同じような高額の死亡慰謝料を認めることに疑問を呈する考え方があります。
被告(事業者側)の代理人弁護士は、このような考え方を意識したのかなと思いました。
つまり、被告(事業者側)の代理人弁護士は、原告(利用者側)家族の感情に配慮して、安全配慮義務違反(予見可能性と結果回避義務違反)については争わず、ただし、過失相殺はできるのではないか、慰謝料額は多額でなくてよいのではないか、と主張して、穏当な着地点を探そうとしたのではないか。
同業者としてはそのような感想を持ちました。