平成29年3月28日/鹿児島地方裁判所/平成27年(ワ)第542号
平成29年3月28日/鹿児島地方裁判所/平成27年(ワ)第542号
【ケース】
ロールパンを誤嚥して窒息し、低酸素脳症となったケース。
【結論】
原告(利用者側)本人に3,669万円の損害賠償が認められています。
【サービス】
介護老人保健施設(2泊3日のショートステイ)(医療法人)
【利用者】
79歳。男性。
入所前から嚥下機能の低下あり。
【予見可能性と結果回避義務違反】
まず、誤嚥についての予見可能性があったと認定しています。
(理由)
① 一般論としてパンはパサパサしており、誤嚥を生じやすい。
② 一般論としてパンは一口が大きくなりやすく、誤嚥を生じやすい。
③ 入所前、本人の妻(原告X2)から、噛み切る力や飲み込む力が弱っているとの情報提供があっていた。
④ 入所後、アセスメントシート・短期入所連絡表に、誤嚥に注意との記載がなされていた。
そこで、結果回避義務としては、
① 飲み込みやすい食物を選択して提供する義務
または、パンを提供するのであれば、
② 小さくちぎったパンを提供する義務
を認定しています。
そして、被告(事業者側)は、
ロールパンをそのまま提供したから、
結果回避義務違反があると認定しています。
【ポイント】
被告(事業者側)は、パンの塊は約2㎝で舌の上にあったと主張しました。
しかし、行政へ提出した事故報告書には、「(喉へ)挿管する。」「パンの塊(5㎝程)を取り出す。」との記載があったため、被告(事業者側)の言い分は認められませんでした。
被告(事業者側)が行政へ提出する事故報告書も、裁判においては重要な証拠となりますので、事実関係は正確に記載しておく必要があります。
【教訓】
本件のような誤嚥事故を防ぐためには、
① 一般論としてのパンの危険性を、各介護職員が介護の基礎知識として押さえておくことを前提に、
② 実践として、当該利用者に対しては、パンを提供しないこと、または、パンを提供するとしても小さく切り分けることの、職員間での事前の情報共有、
③ 仮に、職員間での事前の情報共有を欠いたとしても、食事介助時に、食札などでさらなる注意喚起ができるシステムづくり
ということになるでしょうか。