平成30年2月19日/熊本地方裁判所/平成27年(ワ)第1050号
平成30年2月19日/熊本地方裁判所/平成27年(ワ)第1050号
【ケース】
しゃっくり中に食事を提供し、その後職員が離席し、結果、利用者が誤嚥して窒息し、低酸素性脳症となったケース。
【結論】
1,960万円の損害賠償が認められました。
【サービス】
特養(社会福祉法人)
【利用者】
70歳。女性。
要介護4。
認知症。
大脳皮質基底核変性症(嚥下障害が出現し誤嚥しやすい)
【予見可能性と結果回避義務違反】
まず、原告(利用者側)にしゃっくりが出たときに食物を提供すれば誤嚥を引き起こすことの予見可能性はあると認定しています。
(理由)
① 咽頭に食物が残っているタイミングでしゃっくりが生じると嚥下のタイミングがずれる(一般的な予見可能性)。
② 原告(利用者側)は嚥下障害を生じうる大脳皮質基底核変性症と診断されていた(具体的な予見可能性)。
そこで、結果回避義務としては、
① 「しゃっくりが収まるまで水分を含む一切の食物の提供を停止する義務」および
② 「一口ごとに嚥下を確認する義務、食事介助終了時には口腔に食物が残っていないことを確認する義務」
を認定しています。
そして、被告(事業者側)は、
① しゃっくりが収まっていないのに、すまし汁を与え、
② 食事介助終了に口腔に食物が残っていないことを確認せず離席したから、
結果回避義務違反があると認定しています。
【ポイント】
被告(事業者側)は、言い分として、以下のことを主張しました。
(言い分)
① 嚥下機能が低下している高齢者の誤嚥自体を防ぐことは困難である。
② 知識・経験不足の職員を雇用せざるをえないという、介護現場の実情を踏まえるべきである。
しかし、裁判所は、被告(事業者側)の言い分を認めませんでした。
(理由)
① 嚥下機能が低下しているからといって、誤嚥が生じさせないようにする義務を免れられるわけではない。
② しゃっくりが収まるまで水分を含む一切の食物の提供を停止したり、一口ごとに嚥下を確認したり、食事介助終了時には口腔に食物が残っていないことを確認したりすることは、介護サービス提供の実践における技術水準に照らして高度な要求ではない。
【教訓】
① しゃっくりが出ているのであれば、やはり食事の提供はいったん中止すべきでした。
② 本件で食事介助を担当していたのは、21歳の若者でした。
食事介助の知識・経験は十分ではなかったと想像します。
しかし、裁判所は、知識・経験の不足は言い訳にならないと判断しています。
介護サービスを提供する以上、言い訳できないのはそのとおりです。
しかし、このようなかたちで責任追及された若者たちが、介護職から離れることになりやしないか、介護業界の人手不足がますます進まないか、結果、介護サービスの質が低下し、究極的には利用者が不利益を被らないか・・・さまざまな印象を抱いたケースでした。